山の天気は変わりやすいと言われますが、特に谷川岳や日光白根山のような雪山・高山において、レインウェアは単なる雨よけではありません。強風や冷気から身を守る『防寒着(シェル)』としての役割が死活問題になります。
雨の日の尾瀬ヶ原での濡れにくさはもちろん、標高の高い山頂付近で冷たい強風に晒されたときに、どれだけ体温を守ってくれたか。過酷な状況下でこのウェアが発揮してくれた『透湿性(汗抜けの良さ)』と『防風性』のリアルを解説します。

そもそも、登山でレインウェアを着る最大の目的とは?
登山における「三種の神器」の最後を飾るレインウェア。その選び方を紐解く前に、最も重要な本質を共有させてください。
レインウェアを着用する最大の目的は、雨や風による『低体温症』を防ぐことです。
秋冬の寒い時期はもちろんですが、真夏であっても標高の高いエリアに行けば気温は一気に下がります。濡れた体に風を受ければ、あっという間に体温が奪われ、低体温症はどの季節でも起こり得ます。
実は私自身、少しでも雨の予報があれば、当日であっても「天気がマシな別の山」へ行き先をサッと変更してしまうタイプなので、登山中に本格的な大雨に打たれた経験はそれほど多くありません。
しかし、山の天気は本当に気まぐれです。急な夕立や、予期せぬガスと強風に囲まれたとき、ザックの奥底にレインウェアがあるかないかで、生死の境目が決まることすらあります。天気が良いと分かっていても、「お守り」として必ずザックの最も取り出しやすい場所に忍ばせておきましょう。いざという時は、コンパクトで頼もしいウインドブレーカーやソフトシェルとしても大活躍してくれます。
スペック表の数字に騙されない!レインウェアに必要な2大機能
レインウェアのカタログを開くと、難解な数値が並んでいます。私たちがチェックすべき重要な指標は、ずばり「防水性」と「透湿性」の2つだけです。それぞれのリアルな基準を見ていきましょう。
| 機能 | JIS規格・測定基準 | 一般的な数値の目安 | 登山に必要な推奨性能 | 特徴と一言メモ |
|---|---|---|---|---|
| 防水性 (耐水圧) | JIS L 1092 | 300mm(普通の傘) 2,000mm(一般カッパ) 10,000mm(大雨) 20,000mm(嵐) | 20,000mm 以上 | 生地の「濡れにくさ」を示す値。体重をかけて濡れた地面に膝をついた際、水が染み込まないレベル。 |
| 透湿性 | JIS L 1099 | A-1法(乾燥剤法) B-1法(倒水法) | B-1法で 30,000g/㎡・24h 以上 | 24時間に1㎡あたり何グラムの水蒸気(汗)を外へ逃がせるか。登山中の快適性を左右する最重要項目。 |
| 撥水性 | JIS L 1092 | QTEC(繊維評価技術)基準 | 洗濯後 2級以上 | 生地の表面で水をコロコロと玉状にして弾く力。経年劣化するため、定期的な熱処理や洗濯メンテが必須。 |
1. 【防水性】本当に濡れないための「耐水圧20,000mm」の壁
耐水圧は、外部からの雨水の侵入を防ぐ強さです。登山用途であれば、最低でも20,000mm以上をクリアしているものを選びましょう。これ以下だと、強い雨の中で木々に擦れたり、岩場に手をついたりしたときの圧力で、じわじわと水が中に染み込んできてしまいます。
なお、撥水性は「水を弾く表面のコーティング性能」のことで、登山用ブランドのウェアであれば100%備わっているため、購入時に深く悩む必要はありません。ただし、撥水性は使用に伴い必ず低下します。使ったあとは専用の洗剤でしっかり洗い、乾燥機やアイロンで「熱」を加えることでコーティングが復活しますので、日頃のメンテナンスを怠らないようにしましょう。
2. 【透湿性】超・汗っかきな筆者が声を大にして言いたい最重要スペック
人一倍汗っかきな私が、レインウェア選びで最も血眼になって比較するのがこの「透湿性(水蒸気を通す能力)」です。どんなに外からの雨を防いでも、自分の汗で中がビショビショになってしまっては、衣服内はただのサウナ状態になり、結果として汗冷えによる低体温症を引き起こします。
ここで1点、カタログを見るときに絶対に注意してほしい落とし穴があります。それが「A-1法」と「B-1法」という測定基準の違いです。
日本の登山界で大人気のファイントラック社(エバーブレスフォトンなど)は、測定基準が非常に厳しい「A-1法」で数値を表記しています。それ以外のほぼすべてのメーカーは、数値が大きく出やすい「B-1法」です。
実際に両方のタイプのウェアを着比べてきた私の体感としては、およそ以下の等式が成り立ちます。
A-1法:10,000g/㎡・24h ≒ B-1法:30,000〜50,000g/㎡・24h
異なる測定基準の数値をそのまま比較してしまわないよう、ここだけは注意して選んでください。汗冷えを防いで安全かつ快適に歩くなら、予算の許す限り透湿性の数値が高いモデル(B-1法なら30,000g以上)を選ぶのが大正解です。
私が最初に買ったのは、モンベルのエントリーモデル「サンダーパス(透湿性15,000g・B-1法)」でした。これでも最初は必要十分だと感動したのですが、その後にミレーの銘作「ティフォン50000(透湿性50,000g・B-1法)」にステップアップした瞬間、異次元のドライ感に腰を抜かしました。もはやレインウェアというより「極上のソフトシェル」を羽織っているかのように、汗をかいても中がサラッサラに保たれます。
素材の名前で悩む必要はなし!「数値」を信じて選べば失敗しない
各アウトドアメーカーからは、ゴアテックス(Gore-Tex)をはじめ、スーパードドライテック、エバーブレス、ドライエッジなど、様々な名前の防水透湿素材がリリースされており、「どれを選べばいいか分からない!」とパニックになりがちです。
しかし、安心してください。素材の固有名詞を覚える必要はありません。
なぜなら、素材の違いは、そのまま「耐水圧」と「透湿性」という具体的な数値としてスペック表に表れているからです。素材名で迷ったら、シンプルにスペック表の数値と価格のバランス、そして「着心地」だけで決めてしまって全く問題ありません。
たとえばモンベルを例に挙げると、フラッグシップの「テンペスト ジャケット」は最高峰のゴアテックスを。定番の「ストームクルーザー」は独自の高性能素材を。そして初心者に優しい価格帯の「サンダーパス」にはエントリー素材を採用しています。やはり最大の違いは、透湿性の数値そのものです。サンダーパスは価格は手頃ですが、透湿性が15,000g(B-1法)と、汗だくになる本格的な登りではやや物足りなさを感じます。やはり、登山で快適さを実感するためには、30,000g(B-1法)あたりのラインを狙いたいところです。
登山歴からお勧めする、間違いないメーカー・モデルは?
誰もが認める高いスペックと驚異のコストパフォーマンスを両立させたいなら、やはりモンベルの「ストームクルーザー」が頭一つ抜けていてお勧めです。しかし、「人と同じウェアは避けたい」「デザインにもこだわりたい」という方には、私が愛してやまないミレーの「ティフォン(TYPHON)」シリーズ、またはストレッチ性が抜群に高く動きやすいファイントラックの「エバーブレスフォトン」を強くお勧めします。
特にミレーのティフォンは、初めて手で触れたときに『これが本当にカッパか!?』と疑うほど、しっとり柔らかくて着心地が極上です🎒
雨に降られない私の「ティフォン」超・実践的活用術
前述の通り、私は登山中に雨に遭遇する機会が少ないため、この優秀なティフォンを「雨が降った時だけの雨具」として眠らせておくような勿体ないことはしていません。普段の山行では、以下のようなリアルな使い方で使い倒しています。
- 稜線での「防風ソフトシェル」として: 森林限界を超えて一気に風が強くなったとき、このウェアを上からサッと羽織ることで、風による急激な体温低下を完璧に防ぎます。生地が柔らかいためカサカサという不快な衣擦れ音がせず、タイトめで美しいシルエットのおかげで強風の中でもバタつきが一切ありません。
- 汗だくの登りでの「強制ベンチレーション」: 心拍数が上がって汗をかきそうな急坂では、フロントのダブルジッパーを「下から少し開ける」ことで、ウェア内に風を送り込んで強制的に換気します。これが信じられないほど涼しくて快適です。
- 雪山登山の「ハードシェル代わり」として: 実は冬の雪山登山においても、ティフォンをアウターシェルとして頻繁に愛用しています。厳冬期用の本格的なハードシェルも所有していますが、あちらは生地がどうしても硬く、動きにくさを感じてしまいます。よほど吹雪くような極限状態でない限り、ティフォンの抜群の透湿性と、しなやかな着心地の方が雪山でも圧倒的に快適に動ける、というのが私のリアルな結論です。
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